青林書院



事例解説 成年後見の実務


事例解説 成年後見の実務
 
編・著者赤沼康弘・土肥尚子 編
判 型A5判
ページ数336頁
税込価格3,996円(本体価格:3,700円)
発行年月2016年10月
ISBN978-4-417-01702-8
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■解説
経験豊富な弁護士・裁判官経験者が具体的・詳細な事例に沿って実務を解説!
◆全体像を把握しトラブルを未然に防止する。
◆必要な判断・プロセス・裏付けとなる法的制度を整理。
◆2016年法改正についてもフォロー。


はじめに
現行成年後見制度は,かつての禁治産制度に比べて格段に利用しやすくなり,
運用の改善も加わり,利用件数は飛躍的に増加した。2015年12月末現在の利
用者数は,19万1335人となっている(「成年後見関係事件の概況平成27年」)。
ただし,利用は後見類型に集中し,法定後見制度を判断能力に応じて弾力的な
ものとするため創られた補助や自己決定権を最も尊重する制度として創設され
た任意後見制度の利用件数はきわめて少ない。また,事件数の増大に対する家
庭裁判所の監督体制の整備も追いつかない状況が生じている。
これらを踏まえて,現行法定後見制度に対しては,さまざまな課題が提起され,
また根源的な批判もされている。主なものを以下にあげよう。
まず,制度の枠組みとして多元主義を採用している点である。本人の判断能力
を補助,保佐,後見という3類型にわけ,保佐の代理権,補助の代理権・取消
権は必要に応じて付与するものとし,補助から後見まで,切れ目なく連続的に
柔軟かつ弾力的な措置を可能にする制度にしたとされているが,後見と保佐の
取消権や後見の包括的代理権は,禁治産・準禁治産制度におけるそれと変わり
がない。取消権による行為能力制限や代理権の存在は,本人保護のため大きな
役割をはたすが,他方で,第三者が本人に介入するものでもある。他者の介入
や人の能力を制限することは,必要最小限にとどめなければならない。これは,
個人の尊厳や法の下の平等,さらに国連・障害者権利条約12条が定める,平等
の法的能力の享有が要求する原理である。したがって,ドイツ世話法における
ように,特別必要な場合以外は行為能力制限を行わず,後見人等の権限は,本
人の状況に必要な限度で付与するしくみに転換させることが求められる。
次いで,民法858条が本人意思の尊重を定めてはいるものの,成年後見人等に
本人の財産上の利益保護を優先させる傾向があることである。本人の身上保護
に留意しつつ,本人の意思を重視した実務を実現するため,成年後見人等の行
為基準として,本人の意思と最善の利益との調整の指針を示す必要がある。
 また,成年後見人の権限が財産に関する代理権に限定され(民法859条),
医療の同意に関する権限がないため,身寄りのない本人に医療を保障すること
が十分にできないということもあげられる。
成年後見人等による財産流用が増加したことを受けて,監督体制の充実,強化
も強く叫ばれている。成年後見制度に対する信頼の基礎は家庭裁判所の監督に
あるが,新たな監督体制の整備も必要となろう。
さらに,未だに数多く残る欠格事由があげられる。後見開始にともなう選挙権
の喪失は公職選挙法等の改正により解消したが,公務員の欠格事由をはじめと
する数々の欠格事由の存在は,差別的制約となり,成年後見制度利用に対する
障害をも生じさせる。特定の法律行為ができないということから,直ちにその
他の行為もできないと結びつけるのは明らかに不合理である。
現行成年後見制度に対するこれらの問題提起と超高齢社会の進展による判断能
力減退者の増大を背景に,2016年4月,成年後見制度の利用の促進に関する法
律が制定された。同法は,成年後見の理念として,成年被後見人等の他の者と
の平等を旨とした尊厳,成年被後見人等の意思決定の支援と自己決定権の尊重,
身上の保護の重視をかかげ(3条1項),この理念の下で,保佐,補助さらに
任意後見制度の利用促進,欠格条項の見直し,必要な医療や介護が受けられる
ための支援あり方等が検討されることとなっている。この利用促進法の下で,
これらの課題がどのように整理されるのか,その動向に期待したい。
ただし,本書は,成年後見の制度論を解説するものではない。成年後見実務に
おいてしばしば直面するケースを題材にして,成年後見人等が,実際の実務で,
どのような判断の下にどのようなプロセスで対応しているかを示し,またその
裏づけとなる法的制度を解説するものである。成年後見実務上の一般的課題ば
かりでなく,経験のある実務家であっても対処に悩むいわゆる困難事例も取り
上げた。後見実務に携わる実務家が,既に直面しているか,あるいはいつかは
直面するケースである。同時に,本人の意思の尊重と身上保護の調整を現行実
務の中でどのように進めるべきかということに関する課題も提供している。経
験を積み重ねた実務家が提供する有益な実践例として参考にしていただければ
幸いである。
  
2016年9月
赤沼 康弘


編者・執筆者紹介

赤沼康弘:弁護士(東京弁護士会)
土肥尚子:弁護士(東京弁護士会)
相原佳子:弁護士(第一東京弁護士会)  
小山操子:弁護士(大阪弁護士会  
横松昌典:弁護士(第二東京弁護士会)
井上直子:弁護士(東京弁護士会)
田中朝美:弁護士(東京弁護士会),司法書士(東京司法書士会)  
浅田登美子:弁護士(第一東京弁護士会) 
清水光子:弁護士(東京弁護士会)
伊藤よう子:弁護士(東京弁護士会)
小此木清:弁護士(群馬弁護士会)
後藤真紀子:弁護士(東京弁護士会)
熊田 均:弁護士(愛知県弁護士会)
佐々木育子:弁護士(奈良弁護士会)
矢野和雄:弁護士(愛知県弁護士会)
坂井崇徳:弁護士(東京弁護士会)  
吉野 智:弁護士(東京弁護士会)  
岡垣 豊:弁護士(東京弁護士会)
奥田大介:弁護士(東京弁護士会)  
八杖友一:弁護士(第二東京弁護士会)  
坂野征四郎:弁護士(東京弁護士会)  
渡辺裕介:弁護士(熊本県弁護士会)
末長宏章:弁護士(札幌弁護士会)
北野俊光:弁護士(東京弁護士会)  
森 葉子:弁護士(東京弁護士会)  
山本英司:弁護士(東京弁護士会)



■書籍内容
目   次
第1章 法定後見
第1節 成年後見制度の利用
case01 制度利用の留意点と申立手続
1 成年後見制度成立の経緯
2 成年後見制度の利用
3 事理弁識能力と意思能力
4 成年後見人の推薦
5 申立ての取下げ
6 成年被後見人等の資格制限
case02 高齢者虐待と市町村長申立て
1 高齢者虐待防止法
2 行政による高齢者虐待への対応方法
3 措置により入所する施設等
4 後見人等の候補者
5 診断書がとれない,とりにくい場合の対処
6 虐待者への対応
■論点[01] 外国人の成年後見
第2節 審判前の保全処分
case03 審判前保全処分の活用
1 後見等の申立てと開始までの期間
2 後見等開始の審判前の保全処分
3 財産管理者の選任申立て
4 後見命令,付随して保佐命令・補助命令
第3節 申立て後の審判手続
case04 複数後見・法人後見
1 複数後見
2 法人後見
3 本ケースにおける検討
case05 類型相違・保佐と本人の同意
1 後見等申立手続と鑑定
2 類型毎の本人の意思・同意
3 代理権のない保佐人の職務と権限
case06 審判手続における関係者の地位と開始決定に対する不服申立て
1 成年後見の審判における関係者の地位
2 後見開始の審判に対する即時抗告
3 抗告審の判断に対する再抗告
■論点[02] 成年後見登記
第4節 成年後見人等の職務と権限
case07 選任直後の事務
1 成年後見開始審判の確定時期
2 選任直後の事務
3 後見人の守秘義務
4 家庭裁判所による記録の開示について
■論点[03] 本人宛郵便物と成年後見人の権限
case08 不動産の管理と居住用不動産の処分
1 自宅不動産及び賃貸不動産の管理
2 居住用不動産処分の許可
3 本人意思の尊重義務
4 売却以外の選択肢の検討
5 使用貸借の効力
6 本人の利益と立退料の支払
7 所得税の確定申告
8 自宅売却の税務
case09 株式や証券等の管理(株主権の行使を含む)
1 後見人の財産管理権
2 株主としての権利行使
3 有価証券の管理
4 後見先進国ドイツの民法における投資方法の検討と選択
5 意思決定支援としての株主権行使及び保有有価証券管理
6 証券等の税務
case10 身上監護事務
1 身上配慮義務と事実行為
2 施設入居契約における身元保証人の役割
3 入院における保証人
4 医療上の説明と医療同意
5 見守りの義務
6 高齢者医療と高額療養費限度額適用
7 介護事故の原因調査の方法と責任追及
■論点[04] 精神保健福祉法上の義務
case11 身分上の行為と意思能力
1 縁組意思能力及び養子縁組意思について
2 意思確認資料の収集について
3 意思確認資料の検討
4 養子縁組無効確認請求訴訟を提起するにあたり検討すること
5 養子縁組無効の訴えについて
6 損害賠償請求等
■論点[05] 成年後見実務と遺留分減殺請求権
case12 保佐人の職務
1 保佐制度について
2 同意権・取消権について
3 設問,砲弔い董宗渋緲権の追加の申立て
4 設問△砲弔い董宗淑欹干始と金融機関との取引
5 設問について――取消権行使と本人の意思決定支援
case13 被保佐人の遺言
1 遺言の意義と被保佐人等の遺言能力
2 被保佐人の遺言作成と保佐人の関与
3 遺言内容の確定と方式の検討
4 保佐人が遺言執行者となることの問題点
case14 利益相反行為と本人の利益・後見監督人の責任
1 利益相反行為
2 本ケースの結論と権利濫用法理による被後見人の保護
3 後見監督人の権限
4 特別代理人の選任と善管注意義務
5 成年後見人の善管注意義務
6 本人の意思と最善の利益
7 後見監督人の責任
■論点[06] 贈与と本人の利益
第5節 成年後見監督
case15 成年後見監督人の職務
1 成年後見制度における法定後見監督人の利用促進
2 法定後見監督人が選任される基準
3 成年後見監督人の職務と権限
4 成年後見監督人の同意を要する行為
5 成年後見監督人が代理する場合
6 保佐監督人・補助監督人との権限の違い
7 家庭裁判所に対する報告
8 法定後見監督人に対する報酬
9 法定後見監督人の辞任
case16 後見制度支援信託
1 後見制度支援信託とは何か
2 専門職の関与
3 後見制度支援信託の契約
4 信託契約後の後見事務
第6節 成年後見の費用
case17 後見事務費用と報酬
1 成年後見に関する費用
2 成年後見人の報酬
3 本ケースについて
第7節 辞任・解任・責任
case18 辞   任
1 遺産分割協議と成年後見人
2 成年後見人辞任の要件
3 リレー方式
4 親族等を選任する場合の支援・監督
5 市民後見人の役割
case19 後見人の解任と責任
1 成年後見人の選任
2 家庭裁判所による後見監督
3 後見人の解任
4 後見人の民事・刑事上の責任
case20 成年後見人の第三者に対する責任
1 責任能力
2 責任無能力者の監督義務者の責任
3 賠償責任保険(加害者側の保険)
4 犯罪被害者等給付金制度
第8節 成年後見終了時の事務
case21 成年後見終了にともなう事務と死後事務
1 成年後見終了にともなう事務
2 死後事務の問題点
3 本ケースの検討

第2章 任意後見
第1節 任意後見契約の締結
case22 任意後見利用における留意点
1 任意後見契約の概要
2 任意後見契約の利用形態
3 発効前の見守り契約
4 日常生活自立支援事業との使い分け
5 任意後見契約で委任できる事項
6 死後事務委任契約
7 弁護士会等の財産管理支援
第2節 任意後見監督人選任申立て
case23 任意後見監督人の選任申立て・法定後見との関係
1 任意後見監督人選任の手続
2 任意後見受任者の申立義務の有無
3 本人保護の開始の必要性と任意後見監督人の適格性
4 任意後見優先の原則について
5 任意後見人選任の不適格事由について
6 任意後見契約の発効と法定後見開始は併存しない制度であること
7 まとめ
第3節 任意後見監督人の職務
case24 任意後見監督の方法と責任
1 任意後見監督人の職務の概要
2 任意後見人の事務の監督
3 任意後見監督人の責任
4 重要な財産上の行為に対する同意
5 利益相反行為の代理権
6 家庭裁判所への報告と家庭裁判所の報告請求権等
第4節 任意後見監督人選任の審理
case25 任意後見契約の無効
1 複数の任意後見契約
2 任意後見契約と意思能力
3 任意後見契約の有効・無効を主張する方法
4 本ケースについて
5 任意後見監督人選任手続で任意後見契約の無効が主張された場合の審理方法
第5節 任意後見人の解任
case26 任意後見人の不適切な職務への対処
1 任意後見制度と任意後見監督人の役割
2 任意後見契約の変更
3 任意後見契約の変更と意思能力
4 任意後見契約の解除
5 任意後見人の解任
6 任意後見監督人の法定後見申立て
7 本ケースの検討
 
事項索引
判例索引

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