新出資法 ─条文解釈と判例解説─
- 編・著者編・著者 齋藤正和[編著]
- 判型A5
- ページ数312
- 税込価格3,300円(本体価格:3,000円)
- 発行年月2012年06月
- ISBN978-4-417-01564-2
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■解説
「出資法」の社会的機能や保護法益を詳らかにし,各条文の的確な解釈とこれまでの研究成果や重要判例の解説を織り込んで編んだ充実の実務理論書。
経済社会状況の変化に伴って変容する出資法を明快に捉え,法文の解釈と運用について最新情報を提供。
ISBN978-4-417-01564-2
■はしがき
旧著『出資法』は,1998年(平成10年)に公刊され,2000年(平成12年)に改訂された。幸いにも実務家,研究者ともに好意的に受け入れられ,新しい改訂版はいつ出るのかという多くの問い合わせがあった。
そのような状況のもとに,2006年(平成18年)12月13日,「貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が成立し,同月20日公布された。改正法は,「貸金業の規制等に関する法律」(以下「貸金業規制法」という。),「利息制限法」,「出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律」(以下「出資法」という。)及び関連法律を改正するものであった。そして,改正法は,次のとおり,5段階に分けて施行された。
第1次施行は,公布日である2006年(平成18年)12月20日であり,改正法附則66条のみが施行された。
第2次施行は,公布から1か月後とされており,2007年(平成19年)1月20日に施行された。出資法における業として行う著しい高金利の罪の新設や貸金業規制法における無登録営業の罰則強化など刑罰規定に関する重要な改正が行われた。これは,ヤミ金融関係対策に関する刑事罰の加重であった。
第3次施行は,公布から1年以内とされていた改正法本体の施行であり,2007年(平成19年)12月19日に施行された。これに伴い,「貸金業規制法」は,「貸金業法」と名称が変更され,貸金業法について,取立規制の強化,業務改善命令の導入,新貸金業協会の設立等が実施された。
第4次施行は,改正法本体施行(第3次施行)から1年半以内の2009年(平成21年)6月18日に施行された。この施行によって,貸金業務取扱主任者資格
制度,指定信用情報機関制度が創設された。
第5次施行は,改正法本体施行(第3次施行)から2年半以内の2010年(平成22年)6月18日に施行された。これによって,出資法について,業として行う高金利の罪の刑罰金利の引下げ,高保証料の罪の新設等が行われ,利息制限法について,債権者が業として行う金銭消費貸借(営業的金銭消費貸借)に適用される特則が新設された。さらに,貸金業法については,みなし弁済制度の廃止,過剰貸付けの抑制のための総量規制の導入,貸金業務取扱主任者の必置化等が施行された。
このように,改正法は,2010年(平成22年)6月18日をもって完全施行されるに至り,出資法も大幅に改正された。
そこで,これを契機に旧来の『出資法』の改訂版ではなく,新たな『新出資法』として,本書を刊行することとした。さらに,本書の構成も旧来のものから一新し,
出資法の各条文の解釈論に,さらに出資法に関する重要判例の解説を加えることとした。これは,旧著の執筆方針の一つとしていた,出資法の社会的機能を明らかにするため,できる限り裁判例ないし裁判にいたらなかった事例をあげようと努めたことをさらに発展させ徹底したいという考えからであった。
出資法の各条文の解釈論は編著者が担当し,重要判例の解説は特別刑法判例研究会に所属する若手研究者に執筆をお願いした。編著者の意図をくんで,ご多忙中にもかかわらず執筆を快諾してくれた特別刑法判例研究会のメンバーに対し,ここに深い感謝の意を表する。
特別刑法判例研究会は,1986年(昭和61年),故佐々木史朗先生(元福岡高等裁判所長官)を主宰者とし,特別刑法の解釈の明確化を目指して,早稲田大学出身の研究者および実務家で創設され今日に及んでいる。
なお,新進気鋭の若い研究者の見解を尊重したため,編著者の条文解釈と各判例解説との見解は必ずしも一致していない部分がある。その場合は,条文解釈の部分と判例解釈の部分とを参照され,読者諸賢のご判断に委ねたいという編集方針をご理解いただきご容赦のほどお願いしたい。
今回もまた,資料の収集・整理には,事務所に勤務する石橋しのぶ氏,酒匂美佳氏に協力をお願いした。心よりお礼を申し述べたいと思う。さらに,忍耐強く原稿の完成を待ち続け,本書の刊行にこぎつけてくださった青林書院編集部の大塚和光氏に深い感謝の意を表する次第である。
2012年(平成24年)5月
編著者 齋 藤 正 和
■書籍内容
■目 次
第1章 総論
第1節 出資法の意義
第1 出資法の形式的意義
第2 出資法の実質的意義
1 特別刑法としての出資法
2 経済刑法としての出資法
第2節 出資法の制定
第1 保全経済会事件
第2 匿名組合方式
第3 株主相互金融方式
第4 出資法案の提出
第3節 出資法の改正
第1 昭和58年改正(いわゆるサラ金二法)
第2 平成12年改正
第3 平成15年改正(ヤミ金融対策法)
第4 平成18年改正
第4節 出資法の立法趣旨
第5節 出資法の構造
第6節 出資法制定後の主な同法関連事件
第1 出資金・預り金事犯
1 倫蔵の宮事件
2 佐賀県退職公務員連盟事件
3 北日本相互経済互助会事件
4 商品展示用ケース事件
5 マンション共同経営事件
6 株式会社コスモス事件
7 株式会社ベストアイ事件
8 エンドレスクラブ株式会社事件
9 日本証券委託株式会社事件
10 株式会社ティピーシー事件
11 ユニオン情報サービス株式会社事件
12 宗教法人「再起会」事件
13 株式会社プロスペリティージャパン事件
14 株式会社ジャシージャパン事件
15 東海勧業株式会社事件
16 経済革命倶楽部(KKC)事件
17 オレンジ共済組合事件
18 和牛商法はるな牧場事件
19 和牛商法千紫牧場事件
20 グランドキャピタル事件
21 ジーオーグループ事件
22 リッチランド事件
第2 浮貸し事犯
1 網走信用金庫事件
2 信用組合永代事件
3 常陽銀行事件
4 四国銀行事件
5 農林中央金庫事件
6 住友銀行支店長不正融資媒介事件
第3 高金利処罰違反事犯
1 利息の先払いを受け実質天引きした事例
2 天引きした段階で犯罪となるとされた事例
3 高金利規制違反行為が反復継続して行われた事例
4 契約締結及び債務弁済費用等もみなし利息とした事例
5 高金利業者に資金提供した登録業者を共犯として逮捕した事案
6 古物営業を仮装した自動車売渡担保貸付けに係る高金利事件
7 ヤミ金業者の高金利貸付行為が反復累行された事例
第2章 出資金の受入れの制限・預り金の禁止
第1節 総説
第1 出資法上の規定
1 出資金の受入れの制限に関する規定
2 預り金の禁止に関する規定
第2 運用状況
第3 立法趣旨
1 出資金の受入れの制限(1条)の立法趣旨
2 預り金の禁止(2条)の立法趣旨
第2節 出資金の受入れの制限(1条)違反罪の構成要件
第1 主体
1 行為者
2 両罰規定
第2 出資金
1 意義
2 出資金と預り金との区別
第3 相手方
第4 出資の払戻しの表示行為
1 意義
2 明示又は黙示の表示
3 出資の払戻し
第5 受入行為−既遂時期−
1 意義
2 本罪の既遂時期
3 罪数
第6 脱法行為の禁止
第7 証券取引法の改正
第8 詐欺罪との関係
第3節 預り金の禁止(2条)違反罪の構成要件
第1 主体
1 行為者
2 「業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者」の意義
第2 「業として」の意義
第3 「預り金」の意義
1 定義規定
2 「不特定かつ多数の者」の意義
3 「預金,貯金又は定期積金」の意義
4 「預金等の受入れと同様の経済的性質を有するもの」の意義
5 「社債,借入金その他いかなる名義をもつてするかを問わず」の意義
第4 「預り金」とみなされる場合
1 「みなし預り金」規定の削除
2 ノンバンク社債発行法による削除の背景
第5 詐欺罪との関係
《判例解説1》「不特定かつ多数の者」の意義(その1)
《判例解説2》「不特定かつ多数の者」の意義(その2)
《判例解説3》「不特定かつ多数の者」の意義(その3)
《判例解説4》「預り金」の意義(その1)
《判例解説5》「預り金」の意義(その2)
《判例解説6》「預り金」の意義(その3)
第3章 浮貸し等の禁止
第1節 総説
第1 出資法上の規定
第2 「浮貸し」の意義
第3 立法趣旨
1 沿革
2 本罪の処罰根拠
第2節 浮貸し等の罪(3条)の構成要件
第1 行為主体
1 金融機関
2 従業者
第2 禁止される行為
1 金銭の貸付け
2 金銭の貸借の媒介
3 債務の保証
第3 地位の利用
1 総説
2 特に便宜かつ有利な立場を利用したこと
3 自己の行為として自己の計算において行うこと
4 業務執行に関する判例
第4 図利目的
第5 「地位の利用」と「図利目的」との関係
第6 共犯の成否
第7 他罪との関係
第8 両罰規定の適用
《判例解説7》浮貸し等の罪の「地位の利用」の意義(その1)
《判例解説8》浮貸し等の罪の「地位の利用」の意義(その2)
《判例解説9》浮貸し等の罪の「地位の利用」の意義(その3)
《判例解説10》浮貸し等の罪の「地位の利用」の意義(その4)
第4章 金銭貸借等の媒介手数料の制限
第1節 総説
第1 出資法上の規定
第2 立法趣旨
1 出資法の制定
2 保証料に関する罪の新設(平成18年の出資法改正)
第2節 金銭貸借の媒介手数料の制限違反の罪(4条1項)の構成要件
第1 行為主体
1 「金銭貸借」の意義
2 「媒介」の意義
第2 「媒介に係る貸借の金額の100分の5」の意義
1 「媒介に係る貸借の金額」の意義
2 100分の5に相当する金額を超えないこと
3 手数料の負担者が複数ある場合
4 媒介者が複数ある場合
5 端数金額の切上げ
第3 「手数料」の意義
第4 手数料の契約をし又は手数料を受領する行為
第5 物価統制令との関係
第6 民事責任
第3節 保証の媒介手数料の制限違反の罪(4条2項)の構成要件
第1 行為主体
1 「金銭貸借」の意義
2 「保証の媒介を行う者」の意義
3 「媒介」の意義
第2 「媒介に係る保証の保証料の金額の100分の5」の意義
1 「媒介に係る保証の保証料の金額」の意義
2 100分の5に相当する金額を超えないこと
3 手数料の負担者が複数ある場合
4 保証の媒介者が複数ある場合
5 端数金額の切上げ
第3 「手数料」の意義
第4 手数料の契約をし,又は手数料を受領する行為
第5 物価統制令との関係
第6 民事責任
第5章 高金利・高保証料の処罰
第1節 総説
第1 出資法上の規定
第2 立法趣旨
第3 出資法及び貸金業規制法の制定・改正
1 金融業取締規則(昭和14年)
2 貸金業取締法(昭和22年)
3 出資法の制定(昭和29年)
4 出資法の改正と貸金業規制法の制定(昭和58年)
5 出資法及び貸金業規制法の改正(平成12年)
6 出資法及び貸金業規制法の改正(平成15年)
7 出資法の改正及び貸金業法の成立(平成18年)
第2節 高金利罪(5条)の構成要件
第1 高金利罪(5条1項)
1 行為主体
2 「年109.5パーセントを超える割合による利息」の意義
3 「契約をし」「受領した」及び「要求した」の意義
4 5条1項違反の罪が反復累行された場合の罪数
第2 業として行う高金利罪(5条2項)
1 行為主体
2 実行行為
3 利息制限法との関係
4 旧貸金業規制法43条との関係
5 質屋営業法36条との関係
6 罰則に関する経過措置
第3 業として行う著しい高金利罪(5条3項)
1 業として行う著しい高金利罪の新設
2 罰則に関する経過措置
第3節 高保証料の罪(5条の2,5条の3)
第1 高保証料の罪(5条の2)
1 高保証料の罪(5条の2)の新設
2 5条の2第1項
3 5条の2第2項
4 5条の2第3項
5 5条の2第4項
6 経過措置
第2 保証料がある場合の高金利の処罰(5条の3)
1 保証料がある場合の高金利の処罰(5条の3)の新設
2 5条の3第1項
3 5条の3第2項
4 5条の3第3項
5 経過措置
第4節 みなし利息等に関する規定(5条の4)
第1 みなし利息等に関する規定(5条の4)の新設
第2 貸付け又は保証の期間が15日未満であるときの利息又は保証料の計算方法(5条の4第1項)
第3 利息の天引き(5条の4第2項)
1 利息の天引き
2 実行行為
3 犯罪成立時期
第4 1年分に満たない利息を元本に組み入れる契約がある場合の利息の計算方法(5条の4第3項)
第5 みなし利息等に関する規定(5条の4第4,5項)
1 立法趣旨
2 みなし利息から除外されるもの
3 「みなし利息」に関する裁判例
4 経過措置
第6 物価統制令との関係
第7 金銭の貸付け等とみなされる場合
第8 違反行為・脱法行為処罰規定の構造
第9 日賦貸金業者及び電話担保金融の特例の廃止
《判例解説11》高金利罪が反復累行された場合の罪数
《判例解説12》貸金業の届出義務違反と継続犯
《判例解説13》利息の天引きと高金利罪の成否
《判例解説14》みなし利息の範囲
事項索引/判例索引