保険医の指導・監査問題とその解決 -解決に向けた具体的提案-
- 編・著者大島健次郎 著
- 判型A5判
- ページ数170頁
- 税込価格4,950円(本体価格:4,500円)
- 発行年月2015年09月
- ISBN978-4-417-01666-3
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有り
■解説
はじめに
保険医,特に開業医の医業収入に対する国民の声は批判的です。そのため,保険診療の内容を厳しく調査し,適正を欠く診療を防止せよとの国民の声は少なくありません。指導・監査は保険診療内容の適正と診療報酬請求の適正を担保する目的の行政活動です。この活動は適正医療に必要な一面はありますが,一方において,過剰に展開された場合,委縮医療を招く保険診療に対する負の一面をもっています。また,医療費枯渇の状況を反映し,医療費削減を目的として指導・監査が目的外利用されている一面もあることにも注目したいところです。
医療の現況は高齢者の増加による医療需要の増加,医療技術の進歩に伴う費用の高額化が生じています。それに対し,国家の政府債務残高は1000兆円を超える状況にあり医療財源も限られつつあります。そのため,保険財源の有効利用に向けた圧力は日増しに強まっています。費用対効果を実現するため,医療の選択と集中が進んでいます。そのため,保険請求は過度に複雑となり,同じ診療内容であっても保険医の資格や施設・提供方法により診療報酬に違いがあり,保険医のみならず受診する患者にも錯誤を生じやすい状態にあります。こうした状況下で,適正な医療を担保する保険指導・監査の役割の重要性が高まってきています。
医療は高度専門性があり国民にわかりやすいものではありません。保険財源の視点で構築する保険医療は医療の専門性を十分には反映しません。医療現場の保険医自身が自らも運用しやすく国民にもわかりやすい医療保険制度とその制度維持機能を作り出さなければ,この国の医療の劣化は免れ得ません。保険請求の審査と指導・監査が現況の保険医療制度の維持を行ってきていましたが,保険医は必要な医療の減点査定に対して不満があり,指導・監査でも自殺者を生む状態があり,日本弁護士連合会の意見書が出るほど,平穏と考えがたい状態にあります。医療の現場で活躍する保険医が全力を出して働ける指導・監査がどのようなものであるかを保険医自身が示す必要があると考えました。保険医は法を理解せず,弁護士は医療を理解せず,この問題を考えています。医療と法の両面を考え,医師患者関係を大切にした現場の医療を中心にした医療界の確立は健全な保険医療に不可欠です。本書は医療と法を考えた本邦初の指導・監査問題の基本書です。医療界の自立と自律をこの問題を契機に活発化させるべきと考えています。
出版に当たって,時間のない中,多大な時間をかけ御協力いただいた神谷慎一弁護士に深謝します。
また,御支援をいただいた高木歯科医院高木千訓院長や御協力いただいた市川外科河合正巳院長,並びに,素案を御検討いただいた岐阜県保険医協会の指導・監査委員の皆様に深謝いたします。
平成27年8月
岐阜大学臨床教授 大垣徳洲会病院副院長
大島 健次郎
まえがき
保険医に対する指導・監査における問題点とその対処法がまとめられた,保険医必携の一冊である。
指導・監査の関連法規としては健康保険法やいわゆる療養担当規則が挙げられるが,まず,これらの規定が曖昧であることから問題が生じる。それに加え,指導・監査を行う側と受ける側が法律を知らずに指導・監査を行うことから,現場での混乱が繰り返し起きている。指導・監査を行う側の行政官は,法律に基づかず,場合によっては恫喝などの違法行為を行い,受ける側の保険医は,これに対する法的な対処法を知らない結果,保険医が自ら命を絶つ事態が生じていることは由々しき事態である。
本書では,このような問題に対し,制度上の問題から丁寧に解説したうえ,上記のような問題のある指導・監査への具体的な対処法として,弁護士帯同を挙げている。指導が「指導と名づけられた監査であることを認識すべき」,「監査の場での暴言の抑止や監査記録の保存や手続上の意義の確認などで弁護士は大きな役割をしてくれる」とする指摘は正鵠を得ている。
保険医であれば現実に直面しうるこのような問題に対し,本書のように高い水準でまとめられた書籍は他に類を見ない。臨床の先生方に是非読んで頂きたい一冊である。
平成27年8月
浜松医科大学 医療法学教授
大磯 義一郎
■著者
大島 健次郎
昭和49年岐阜大学医学部医学科卒業。卒業後,国立公衆衛生院(現,国立保健医療 科学院)で研修,岐阜大学病院,岐阜県立岐阜病院勤務後,平成5年より20年間大
腸中心の消化器内視鏡専門医療機関を開業。開業後,50,712件の大腸内視鏡検
査,大腸進行がん1,187例,早期がん1,750例を診断治療した。その生命延長効果は
20年間で26.996年であった。平成25年より大垣徳洲会病院副院長・岐阜大学臨床教
授・岐阜県保険医協会副会長。
この間,インフルエンザ・川崎病・大腸扁平型陥凹型早期癌・大腸ポリープ・止血
鉗子・難治性十二指腸潰瘍の心身医学的研究・消化管固形がんの化学療法・大腸が
ん検診などについての内科学会・消化器病学会・消化器内視鏡学会などでの発表多
数,指導・監査問題についての発表や相談対応,執筆も多数。医療講演のほか,最
近は高点数医療機関の個別指導の経験から,医療関係法令と医療倫理・医療事故調
査問題を中心に執筆活動中である。
■書籍内容
第1章 指導・監査の基礎的問題――指導・監査の必要性
〔1〕 医療契約の視点
〔2〕 複雑な保険診療の視点
〔3〕 医療の質・専門性・個別性の視点
〔4〕 指導・監査と医療関係法の視点
〔5〕 診療報酬点数表と医療関係法の視点
〔6〕 医療倫理の視点
〔7〕 契約論と診療内容の視点
〔8〕 労働契約法からの視点
〔9〕 診療報酬請求方式からの視点
〔10〕 社会学的視点
〔11〕 医療界の自立と自律の視点
第2章 指導・監査の実態
〔1〕 全国の実態
⑴ 全国の審査の実態
⒜ 診療報酬請求の審査から見た各県の過誤請求の実態(医科・歯科全体) ⒝ 診療報酬請求の審査から見た過誤請求金額の実態(医科) ⒞ 診療報酬請求の審査から見た過誤請求金額の実態(歯科)
⑵ 全国の指導・監査の実態
⒜ 指導・監査実施件数 ⒝ 指導・監査による返還金 ⒞ 指導の返還金額の実態 ⒟ 監査へ移行すべき返還金額 ⒠ 指導の返還金額と件数の検討 ⒡ 監査の返還金額の検討 ⒢ 保険医取消基準とすべき返還金額と件数 ⒣ 本書の基準設定の問題点
⑶ 指導・監査の地域間格差
⑷ 保険医取消の返金額とその内容
〔2〕 岐阜県の実態
〔3〕 指導・監査の影響
〔4〕 指導・監査の判例とその意義
⑴ 溝部訴訟
⑵ 細見訴訟
⑶ その他の保険医療機関取消無効請求の事件
⑷ M歯科医師事件(裁判記録閲覧より)
⑸ カルテの開示拒否事件(T事件)
⑹ 伝聞情報での指導返還金事例
第3章 指導・監査のあるべき姿
〔1〕 保険医の人権
〔2〕 指導・監査の必要性
〔3〕 指導・監査の許容性
〔4〕 一般社会との接点
⑴ 国民との関係
⑵ 弁護士との関係
⑶ マスコミとの関係
第4章 指導・監査問題とその歴史
〔1〕 指導・監査の歴史
〔2〕 指導・監査運用基準の変更
第5章 指導・監査の実態と問題点
〔1〕 診療報酬の保険審査の問題
〔2〕 指導の問題
⑴ 指導対象者の選定
⑵ 指導方法の問題
⑶ 制度上の問題
⑷ 保険医の意識の問題
⑸ 弁護士帯同の必要性
⑹ 立会人の問題
⑺ 医療関係団体の問題
〔3〕 監査の問題
⑴ 監査対象者の選定
⑵ 監査の方法
⒜ 理由の開示がないこと ⒝ 被疑事項以外の調査が行われること ⒞ 提示すべき内容が多いこと ⒟ 監査期間が長いこと ⒠ 監査官の強圧的対応
⑶ 制度上の問題
⑷ 保険医の意識
⑸ 弁護士の帯同
⑹ 同僚医師の立会
⑺ 医療関係団体と監査対象者との関係
⑻ 保険医の自殺と保険医取消の問題
⑼ 聴聞と地方医療協議会
第6章 現在の指導・監査の改善策
⑴ 指導・監査の制度
⑵ 指導・監査対象者の選定
⑶ 指導・監査理由の開示
⑷ 指導・監査の方法
⑸ 同席者の選定
⑹ 行政処分の明確化
⑺ 聴 聞
⑻ 地方社会保険医療協議会
第7章 根本的な指導・監査の改善策
巻末付録 保険医のための関連法規
〔1〕 憲 法
〔2〕 刑 法
〔3〕 刑事訴訟法
〔4〕 民 法
⑴ 総則的規定
⑵ 個別的規定ほか
⒜ 委任契約 ⒝ 請負契約 ⒞ 売買契約 ⒟ 不当利得の返還義務
〔5〕 民事訴訟法
〔6〕 国家公務員法
〔7〕 地方公務員法
〔8〕 行政手続法
〔9〕 健康保険法
〔10〕 指導大綱
〔11〕 保険医療機関及び保険医療養担当規則
〔12〕 医 師 法
〔13〕 歯科医師法
〔14〕 薬剤師法
〔15〕 医 療 法
〔16〕 労働契約法
〔17〕 個人情報の保護に関する法律
事項索引