
ケースから読み解く少年事件 -実務の技-
- 編・著者河原 俊也 編著
- 判型A5判
- ページ数362頁
- 税込価格4,620円(本体価格:4,200円)
- 発行年月2017年06月
- ISBN978-4-417-01714-1
- 在庫
有り
■解説
◎裁判官の視点から!
現在の少年事件実務家の知恵と技法!
◆少年事件担当の裁判官や調査官、少年矯正・保護担当者が執筆!
◆ひとつのストーリーを軸とした解説!
◆調査官はどのような点に留意して調査をするのか? 裁判官はどの
ような事実を重視し て事実を認定し処遇を選択するのか? 少年
矯正・保護担当者はどのような教育的働き 掛けを行い、少年を更
生するのか?・・・
外からは見えにくい少年事件の実際と実情を分かりやすく詳解!
はしがき
1 現に少年事件を担当している裁判官らによる事件処理の知恵,技
本書の特色を一つだけ言うとすれば上記に尽きる。少年法については,
文献略語に掲げたものなど,優れた体系書や注釈書のほか,手続の流
れに沿った解説書も多数公刊されている。しかし,本書は,執筆者で
ある裁判官や家庭裁判所調査官が,いずれも大規模ないし中規模の家
庭裁判所において現に少年事件を担当している者ばかりである点に特
色がある内容を見ても,特段目新しいものはないかもしれないが,現
時点での標準的な少年事件処理に関する実務の知恵なり技を示すこと
ができたと自負している。「私が何も新しいことを言わなかったなど
と,言ってほしくない。素材の配置が新しいではないか。ジュ・ド・
ポーム(注:テニスの前身となった球技)をするときは,両方のプレ
イヤーとも同じ球を使うが,一方がよりよい場所に球を打つ。」
(パスカル『パンセ(中)』塩川徹也訳(岩波書店,2015)395頁)
とまで言うのは言い過ぎだろうか。ともあれ,初めて少年事件を担当
する裁判官,弁護士,あるいは少年法を勉強する法科大学院生などに
とって,少年事件の実務ひいては少年法を理解する際の手掛かりにな
れば幸いである。もちろん,少年事件を相応に経験,研究されている
方も利用していただければ,編集者としてこれ以上の喜びはない。
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2 ケースを基にした解説
本書では,少年事件手続の一般的な解説に加えて,ケースの事件
(特殊詐欺の現金受取役をした年長少年〔さしたる前歴を有しない。〕
が詐欺の故意を否認するという,事実認定上も処遇選択上も相応に悩
ましい事件である。最近比較的多く見られる。)が家庭裁判所に係属
した後,調査官はどのような点に留意して調査するのか,裁判官はど
のような事実を重視して事実を認定し,処遇を選択するのかという点
にも重きを置いて解説している。また,家庭裁判所での審判後,少年
院,保護観察での教育的措置などを受けながら,非行少年が健全な人
間に戻っていく過程についても,少年矯正,少年保護担当者による解
説を掲載している。すなわち,ケースのA少年が非行に及んだ後,家
庭裁判所での調査,審判,少年院での矯正教育,そして保護観察とい
う手続の流れでどのように更生していくのかを示している。架空の事
例とはいえ,一つのストーリーを軸として解説することを通じて,読
者が具体的なイメージの下,少年事件の実務を理解できるよう工夫し
たつもりである。さらに,ケース以外でも実務上よくある事件,ある
いは被害者配慮に関する事項については,別に項目を分けて解説した
(ただし,在宅事件やぐ犯事件などについては,頁数の制約もあって
十分に解説することができなかった。)。
なお,ケースは,少年事件に携わる裁判官らの具体的な思考過程が考
察できるように,実際の事例を念頭に置きながらも,大幅に脚色,編
集し,かつ,リアルにしてある。当然,全て架空であることをお断り
しておきたい。また,解説中,意見にわたる部分は執筆者の私見であ
る。
3 「知の技法」はしがきから
平成6年,『知の技法 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト』
が刊行され(小林康夫=船曳建夫編,東京大学出版会),この種の本
にしてはベストセラーになった。この本のはしがきに以下のとおりの
記述がある。この本の編集の理念は,むしろ「賞味期間」がせいぜい
数年であるようなフレッシュな考え方とトピックを集めることにあり
ました。固定的なスタンダードの確立を目標にしたのではなく(略)
現在の知の在り方を正直に反映するものであることが企画されていま
す。技術も技法も時代とともに変化するもので(略)あるからです。
現在の少年事件処理の「技法」を集めた本書の編集理念についても,
同じことを述べたい。少年法を始めとする本書で解説されている法律
については,近時,立法の動きが激しく,今後もその動きが続くと予
想される。そうであるとするならば,法改正やその背後にある国民の
意識の変化などにつれて,本書で解説されている実務の在り方も変化
していかざるを得ない。『知の技法』が平成10年に『新・知の技法』
としてヴァージョンアップされたのに倣って,本書もいずれ改訂され
ることを期待している。
本書の作成に当たって,青林書院編集部の長島晴美さん,前任者の
高橋広範さんには大変お世話になった。また,執務ご多忙の中,短期
間で迅速に素晴らしい解説を作成していただいた執筆者の皆様にも心
から感謝申し上げたい。
平成29年6月
河原 俊也
編著者
河原 俊也:横浜家庭裁判所少年部部総括判事
執筆者
藤根 桃世:名古屋法務局訟務部付
西田 俊男:前横浜家庭裁判所総括主任家庭裁判所調査官
奥田 哲也:奈良地方・家庭裁判所葛飾支部支部長判事
河畑 勇:東京家庭裁判所少年部判事
伊藤 敏孝:さいたま家庭裁判所少年部部総括判事
池上 弘:静岡家庭裁判所判事補
加藤 学:千葉家庭裁判所少年部部総括判事
等々力 伸司:長野少年鑑別所長
藤原 尚子:法務省矯正局少年矯正課補佐官
押切 久遠:水戸保護観察所長
(執筆・掲載順,肩書きは刊行当時)
■書籍内容
目 次
ケース
第1章 少年事件の流れと基本的な考え方
1「凶悪な犯罪者は痛い目に遭わせる必要がある」
2少年法の目的
3少年保護事件の対象
4事件の受理
5調 査
6観護措置
7審判手続
8終局決定
9試験観察
10抗 告 審
11終わりに
column カラスの涙
第2章 観護措置
1観護措置の概要及び目的・機能
2観護措置の要件
3観護措置を執る時期,逮捕・勾留手続等
4観護措置の期間
5観護措置の決定手続
6観護措置決定後の手続
7観護措置の単位
8再度の観護措置
9観護措置の効力
10観護措置の効力の消滅
11異議の申立て
column 決めつけないで
第3章 社会調査
1社会調査とは
2記録を受け取って
3ケースにおけるAの場合
4調査官調査
5非行促進・非行抑止要因について
6調査結果の報告
7まとめにかえて
column 湘南の海
第4章 否認事件での事実認定
1非行事実認定の意義
2事件受理直後
3審判の準備
4審判期日
5非行事実の認定
column 少年事件と伝聞法則
第5章 処遇選択
1処遇選択の意義
2終局決定の種類
3処遇勧告
4処遇の実情
5処遇選択における考慮要素
6処遇選択をめぐる具体的な問題
7保護(教育)的措置
8試験観察
9ケースの検討
column 動向視察
第6章 特殊事件
1原則検察官送致事件
2外国人事件
3交通事件
column 昔の少年のつぶやき
第7章 被害者への配慮
1はじめに
2被害申告──弁護士によるサポート
3証拠としての被害者──事情聴取時の配慮
4捜査機関による被害者支援
5家庭裁判所送致後の被害者
6審判結果後
column だまされる方が悪いのか
第8章 抗 告 審
1抗告の対象
2抗告理由
3異なる保護処分,刑事処分を求める抗告の可否
4抗告権者
5抗告手続
6原裁判所及び抗告裁判所の手続
7抗告の効果
8抗告権の放棄,抗告の取下げ
9抗告審の審理
10抗告審の裁判
11差戻し又は移送後の審判
12不利益変更の可否
13抗告受理の申立て
column 少年に希望を
第9章 少年矯正
1少年院及び少年鑑別所の成り立ち
2少年院法の改正及び少年鑑別所法の制定
3少年鑑別所
4少 年 院
column 面接で考えること
column 小さな芽
第10章 少年に対する更生保護
1はじめに──更生保護とは
2少年に対する保護観察
3生活環境の調整と仮退院審理
4少年に対する更生保護の新たな動き
5少年の更生保護における課題
6おわりに
column 後で効いてくる
事項索引/判例索引