法律家のための企業会計と法の基礎知識
- 編・著者古田佑紀・梅林啓・市川育義 編
- 判型A5判
- ページ数300頁
- 税込価格3,850円(本体価格:3,500円)
- 発行年月2018年01月
- ISBN978-4-417-01732-5
- 在庫
有り
■解説
法律実務家×公認会計士×法学者
〇企業会計を概観しつつ,会計基準に違反する会計処理の法的論点につき
過去の事例も踏まえて網羅的な解説を試みる!
〇決算書の種類・仕組み・見方のポイント,監査の基礎知識と手順等,
会計処理の実際も豊富な図表で手ほどき!
本書は,主として法律実務家向けの入門的な企業会計の解説書である。
企業法務を業務分野とする法律家にとって,企業会計への理解は不可欠
であるが,ある会計事象をどのように会計処理するか,あるいはすべき
かという問題に直面すると,会計処理原則の多様性や複雑さ,さらには
曖昧さも相俟って,それは公認会計士の専門分野であり法律家の専門分
野ではないと考えてしまうことも少なくない。しかし企業の行った会計
処理が不適切であれば,そこには様々な法律問題が発生するのであって
,本来,法律家は,会計処理の適否についての判断から逃げることはで
きないはずである。
企業の会計処理の適否が問題となった過去の民事刑事の裁判例を見て
も,一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行(あるいは基準)とは
何か,このような企業会計の慣行(あるいは基準)に違反する会計処理
(不適切会計)とはどのようなものか,不適切会計がどのような法的責
任を構成するのか,具体的な不適切会計事件としてはどのようなものが
あり,その法的観点から見たポイントは何なのかなど,論点は様々であ
るが,公認会計士からみて不適切な会計処理であっても,それが会社や
役員等の法的責任に結びつくとは限らないなど,実際の事案における裁
判所の判断要素も統一的ではない。
本書は,法律家が理解しておくべき企業会計の基礎的な知識をおさえ
た上で,法と企業会計との関係を,法律家及び公認会計士の視点から概
観し,さらに法律家が最も関心のあるであろう会計基準に違反する会計
処理がなされた場合の法的論点について,過去の事例を踏まえながら網
羅的な解説を試みた。このような目的のために,本書は,実務家である
弁護士と公認会計士,刑法と会社法の研究者が分担して執筆したが,結
果として,法律家だけではなく,公認会計士にとっても意義のある解説
書となったように思われる。
本書の刊行に当たっては,株式会社青林書院編集部の加藤朋子さんに
は,全体の校正や編集作業において多大なる作業をお願いした。
この場を借りて深く御礼申し上げたい。
2017年11月
編者一同
編 者
古田 佑紀:弁護士
梅林 啓:弁護士(西村あさひ法律事務所)
市川 育義:公認会計士(有限責任監査法人トーマツパートナー)
執筆者
古田 佑紀:(上掲)
梅林 啓:(上掲)
市川 育義:(上掲)
安部 立飛:弁護士(西村あさひ法律事務所)
神作 裕之:東京大学大学院法学政治学研究科教授
佐伯 仁志:東京大学大学院法学政治学研究科教授
山添 清昭:有限責任監査法人トーマツ ディレクター公認会計士
■書籍内容
第1 会計の意義
実務レベルの会計
代表的な決算書
決算書の作成プロセス
⑴ 決算書の基本構造
⑵ 作成事例の説明
ア 平成27年度(会社設立)
イ 平成28年度(営業開始)
ウ 平成29年度(通常期)会計処理の基本的な考え方
⑴ 企業会計原則関係(一般原則)
ア 真実性の原則
イ 正規の簿記の原則
ウ 資本取引・損益取引区分の原則
エ 明瞭性の原則
オ 継続性の原則
カ 保守主義の原則
キ 単一性の原則
ク 重要性の原則
⑵ その他
ア 会計上の見積り
イ 過去の誤謬 決算書の制度的な位置づけ
⑴ 法定書類としての決算書
⑵ トライアングル体制
中小企業の決算報告
⑴ 中小企業の会計処理
⑵ 中小企業の今後の対応
第2 法と会計
法律家の視点から見た会計
⑴ 序文
ア 会計処理と法の接点
イ 法的な観点から会計処理を見る場合の留意点
ウ 終わりに
⑵ 会社法会計
ア 会計の原則
イ 会計帳簿と計算書類等
ウ 計算書類等に関する会社法の諸制度
エ 臨時計算書類と連結計算書類
オ 剰余金の配当
カ 会社法会計の目的
⑶ 金商法会計
ア 目的
イ 発行市場の開示
ウ 流通市場の開示(継続開示)
エ 臨時報告書による開示
オ 有価証券届出書等の公衆縦覧
カ 財務諸表
キ 公認会計士又は監査法人による監査証明
会計士の視点から見た会計
⑴ 会計基準の種類
ア 日本基準
イ 米国会計基準
ウ 国際財務報告基準(IFRS)
エ 修正国際基準
オ まとめ
⑵ 連結決算制度の仕組み
ア 連結財務諸表とは
イ 連結財務諸表の作成プロセス
ウ 子会社の判定
⑶ 会社法における会計と金商法における会計の接近
⑷ 今後の会計基準の動向
法令上準拠すべき会計基準―会計基準の法規性
⑴ 法律家から見た「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」と
「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」
ア 「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」と
「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」の意義
イ 「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に関するいくつかの裁判例
⑵ 会計士から見た「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」と
「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」
ア 「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」は,
上場会社や中小企業などの会社ごとに具体的内容を異にすること
イ 上場会社の場合であっても,これまで想定していなかった新たな会計事象に
ついては,基準化されるまでの間,一定の実務慣行が形成されること
ウ 「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」であっても,具体的内容が
すべて明確になっているものではないため,業界ないしは企業グループごと
に実務慣行として定着している会計処理が想定されること
第3 基礎的な会計処理の知識
1 制度会計の仕組みと決算書の種類
⑴ 金商法会計と会社法会計
⑵ 決算書の種類
ア 会社法(株主総会提出用の決算書)
イ 金商法(上場会社等の決算書)
2 会計処理の手続・会計書類の作成等
⑴ 決算書作成の流れ(決算書の作成プロセス)
⑵ 期中の会計処理
⑶ 残高試算表による検証
⑷ 決算処理の内容と留意点
ア 会計方針に従った処理
イ 資産残高の点検(実在性のチェック)
ウ 資産・負債の評価
エ 費用・収益の点検(期間帰属のチェック)
オ 仮勘定の整理
カ 期中の処理誤り等の点検
キ 減価償却計算
ク 引当金の計算
ケ 税金計算,税効果会計の計算
コ 1年基準による流動・固定振替処理(貸借対照表項目),
営業外損益・特別損益の振替処理(損益計算書項目)等
⑸ 残高試算表と貸借対照表・損益計算書
3 決算書の仕組みと見方のポイント
⑴ 決算書の仕組みとねらい
⑵ 貸借対照表の仕組みと見方のポイント
ア 貸借対照表の基本的な仕組み
イ 貸借対照表の見方のポイント
⑶ 損益計算書の仕組みと見方のポイント
ア 損益計算書の基本的な仕組み
イ 損益計算書の見方のポイントについて
⑷ 株主資本等変動計算書
ア 株主資本等変動計算書の基本的な仕組み
イ 株主資本等変動計算書の見方のポイント
4 監査の基礎知識とその手順等
⑴ 公認会計士の監査実施の手順について
⑵ 公表されている監査の基準
⑶ 「監査における不正リスク対応基準」について
ア 「監査における不正リスク対応基準」のねらいと全体像
イ 職業的懐疑心の強調
ウ 不正リスクに対応した監査の実施
エ 監査役等との連携
第4 会計基準に違反する会計処理
1 不適切会計と法的責任
⑴ 民法上の責任
⑵ 会社法上の責任
ア 任務懈怠責任(会社423条1項)
イ 第三者に対する損害賠償責任(会社429条1項)
ウ 第三者に対する損害賠償責任(会社429条2項)
エ 代位責任(会社350条)
オ 役員等の解任
⑶ 金商法上の責任
ア 民事責任
イ 行政上の責任(課徴金)
ウ 刑事責任
⑷ 虚偽の会計処理につき役員等が賠償責任を負う損害の範囲について
ア 信用毀損による損害,弁護士に対する報酬,調査委員会にかかる費用等
イ 会社法と金商法の横断問題(課徴金等の役員等への転嫁可能性)
2 評価的要素と会計基準違反(民事関係)
⑴ 公正妥当と認められる企業会計の慣行
⑵ 「公正妥当と認められる企業会計の慣行」の意義
ア 緒論
イ 企業会計審議会・企業会計基準委員会の会計基準
ウ 企業会計基準委員会の企業会計基準適用指針
エ 日本公認会計士協会の指針
オ 税法基準
カ 小括
⑶ 会計基準の選択と役員等の民事責任
ア 会社法上の民事責任
イ 従うべき会計基準が1つしか存在しない場合
ウ 公正妥当と認められる会計基準が複数存在する場合
エ 公正な会計慣行が不明確又は存在しない場合
⑷ 会計基準の解釈・適用と役員の責任
⑸ 会計基準の選択・解釈に係る役員等の義務と経営判断の原則
3 評価的要素と会計基準違反(刑事関係)
⑴ 複数の会計基準が存在する場合
⑵ 明確な会計基準が存在しない場合
⑶ 会計基準による処理と実態が乖離する場合
ア 実質主義と形式主義
イ アメリカの判例
ウ わが国における解釈
⑷ 会計基準の評価的要素
⑸ 課徴金と刑罰
第5 具体的事例の解説
⑴ 事例の分類
⑵ 収益の過大計上
⑶ 収益の前倒し計上
⑷ 費用の過少計上
⑸ 費用の先送り計上
⑹ 資産の過大計上
⑺ 資産の評価替え回避
⑻ 負債の過少計上及び負債の評価替え回避
資料
資料1 事件一覧表
資料2 会計用語
事項索引/判例索引